ギリシャ問題
ギリシャは、ドイツ人などの避寒地リゾートであった。現地の人たちはドイツ人たちの豊かなライフスタイルを指をくわえて見てた。そのギリシャが自国通貨ドラクマを捨て、地域統一通貨ユーロに参加した。「これでドイツ人並みの生活ができる」とギリシャ人は夢を見た。実際、自動車ローン金利がいきなりドイツ並みに安くなった。舞い上がった国民も政府も財布のひもが緩み、放漫財政に陥った。特権階級は私腹を肥やした。納税者と徴税側のなれあいが横行した。その間、脆弱な産業基盤は変わらなかった。
このバブルは、国の財政赤字粉飾が露呈したことがキッカケで崩壊。いざ、国がデフレ・スパイラルに陥ると、ユーロに参加したことが裏目に出た。自国通貨を放棄したので、通貨安政策で、国際競争力を強化することができない。しかも、ユーロの「会員資格」を保つためには、プライマリーバランス(基礎的財政収支)黒字目標を達成しなければならない。この財政を均衡化方向に導けば、自国経済のかかえる債務の返済にあたり、EU(欧州連合)・ECB(欧州中央銀行)・IMF(国際通貨基金)が融資して助けてくれる。しかし、経済正常化に向けた努力を怠れば、救済融資打ち切りという厳しい仕置きを受ける。
この掟(おきて)を、ギリシャ側は緩めることを求め、債権団は、「緊縮」という条件つきで救済を続けてきた。しかし、イソップ物語風にいえば、ドイツの「アリ」気質と、ギリシャの「キリギリス」気質は容易に変わるものではない。特に、要求される「緊縮」条件が「年金カット・消費増税」となると、たちまちギリシャ国内で一挙に大政治問題化。現チプラス政権は、僅差で選挙を勝利した連合政権なので、首相も「決められない」。そこで、抜き打ち的に、「国民投票」で是非を問う「奇策」に出た。寝耳に水の債権団は、不信感を募らせ、6月30日のIMF債務返済期限の延期と包括的救済融資プログラムの延長を拒絶。
その間、銀行預金引き出しは日に日に加速していたのだが、頼みの綱のECBからの資金援助も、増額が拒否された。やむなく、チプラス首相は、「銀行休業、預金引き出し上限1日60ユーロ」という規制を導入した。
昨日は、土壇場での交渉妥結に向けて、EUのユンケル欧州委員長やメルケル独首相が「まだ、ドアは少しだけ開かれている」との最後の妥協の道を探った。しかし、チプラス首相は、「ギリシャ人には威厳がある。屈辱的な提案はのめない」とのスタンスを変えていない。
もはや、万策尽きた感じだ。このまま7月1日を迎えれば、ギリシャは、例えていえば、全ての点滴を外された患者状態になる。まずは国民投票日の7月5日まで、なんとか自助努力で生き残るしか術はない。まさに海図なき航海が始まる。そして国民投票の結果が、債権団案受け入れにしても、拒否にしても、両者の不信感はぬぐい難い。
既にギリシャの若者たちは、就職先を求め国外脱出を開始している。国全体が過疎化の道を歩んでいる。今のギリシャに追加的に救済資金を入れても、実体経済を潤すことなく、借金の金利返済に使われるだけだ。
ユーロ離脱を先送りしても、長期的に、ギリシャは脱落してゆくだろう。いっぽうユーロ圏の団結力そして信認はジワリ問われることになる。バルカン半島も最南部まで不安定化する。
マーケットに関しては、短期的なショック症状が一巡すれば、他の南欧諸国への伝染は防げる。欧州民間銀行の体質は強化され、万が一のための救済基金も潤沢に準備されている。リーマン・ショックの二の舞になる可能性は極めて薄い。
日本への影響も一過性だ。株急落も一部の外国人短期投資家がまとまった売りを出したことがキッカケである。6月末の決算期を控え、しかも、今週は7月4日の米国独立記念日でNY市場が休場という特殊事情もある。円高リスクも指摘されるが、世界的なドル高基調の中では、一時的現象となろう。あくまで、一時退避先として円が選択されただけのことだ。株に至っては、上昇過程同様に、下落過程でも外国人の短期マネー主導に振り回されている。海外からの長期マネーは冷静に見守りつつ、買い場を模索中だ。
7月1日の朝も普通に明けるだろう。いきなり激震に見舞われるわけではないだろう。